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日産・トヨタ・ダイハツのギア付きCVTの違い

日産
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2018年前後でギア付きCVTが色々出てきた

2009年に日産グループのジヤトコがギア式の副変速機を付けたCVT7(JF015E)を出しました。

当時としては変速機最大クラスの変速比7.3を誇り、スズキのパレットを皮切りに日産・スズキ・三菱の小型車に採用されて当時の燃費競争に拍車をかけていきました。

ジヤトコのCVTカタログは下記。

https://www.jatco.co.jp/wp-jatco/wp-content/themes/JATCO/assets/document/jatco_products_j.pdf

しかし追随する仕組みのCVTが出ないまま、ジヤトコ自身もCVT-Sという軽自動車用の副変速機レスのCVTを出してこのまま時代の徒花で終わるのかと思われたその時、2018年にトヨタからダイレクトシフトCVT、2019年にはダイハツからD-CVTという2つのギア付きCVTが出てきました。

注:ダイレクトシフトCVTはアイシンAW製造のAWFCW21です。

この3種特徴がかなり異なるので、紹介していきたいと思います。

今回のギア付きCVTの定義

CVTは金属ベルトまたはチェーンでプーリーを回して変速する機構ですが、ベルトだけでなく、前後進用に遊星ギアが付いています。

遊星ギアは下記のように中央のサンギア・サンギアの周囲を回るプラネットギア・外周のアウターギアで構成されています。

それぞれの要素をクラッチで締結やブレーキでロックすることで、入力軸の回転方向は同じでも、出力側の回転方向・速度の変更が出来るようになっています。

↓ここでいうクラッチは下記のクラッチプレートです。MT車の踏むアレではないです。

ちなみにほとんどの有段ATは遊星歯車の複数組み合わせとなっています。この遊星歯車の詳しい動きは見れば見るほどワケワカメ、さらに組み合わせると全く複雑怪奇な動きなので省略します(オイ)。

また、CVTには他にもトルク調整や回転ノイズ低減、プーリーへの入力回転数を落とすためにだいたい4つのギア(アウトプット、アイドラー、リダクション、ファイナル)を使って4軸構成になっていることが多いです。ダイハツのD-CVTの前のCVTはインプットリダクション方式で3軸になっています。

ということで、CVTもギアを動力伝達のためにいっぱい使っているわけなのですが、今回は変速機構にギアを使っているCVTを紹介します。

ジヤトコ CVT7 JF015E(エクストロニックCVT)について

概要

変速比:7.3(ワイドレンジ版もありますが日本では展開されていないので省略)

トルク領域:~18.0kg/m(1.8Lエンジンの日産シルフィまで採用)

JF015Eの特徴

このCVTの特徴なのですが、前段で紹介した前後進用の遊星ギアにLOW:1.0、HIGH:1.8の変速機構を持たせていることです。

基本ベルト変速で駆動しつつ、加速したい場合やトルクが必要と判断した場合は副変速機をLOW側、巡航時の低負荷時はHIGH側に変速させて、適切な燃費とトルクを提供するようになっています。

ユーザーのメリット

全域でワイドな変速比により、巡航時のエンジン回転数が下がり快適性と燃費が向上します。

MH34SワゴンRで100km/hで2,500回転、80km/hで2,000回転、60km/hで1,500回転くらいです。デイズルークスはターボでもワゴンRの+500回転くらいですがそれでも低回転です。

このCVT、平坦な道の場合、これでもかというくらい回転を下げてくれます。かつロックアップしている場合のスムーズな走行感とエンジンの静かさ、燃費の良さは特筆モノです。

副変速機の変速もある程度アクセルでコントロールできるので、いかにエンジンを回さずに走るか、というのが楽しくなってきます。

ノート・マーチなどのこのCVTが載っている普通車だと、トルクがあるせいか、タコメーターを見ないと副変速機の介入を感じないくらいよく出来てスムーズに走ります。ノートの1.2L NAに乗った際はもうこれがメインカーでいいんじゃないのと思いました。

ユーザーのデメリット

副変速機の加速時の変速タイミングがセンシティブなので人間の感覚に対して違和感を感じることがあります。

加速したい場合に踏み込むと、CVTがプーリー比を上げつつ、副変速機がすぐLOW側に入り、トルクコンバーターのロックアップが外れてしまうという3つの溜め要素が入るため、エンジン回転に車速が付いてこないラグ、いわいる巷で言うラバーバンドフィールというものを感じます。

また巡航時にゆっくり加速をしようとしても、HIGH側が維持されるような浅い踏み方だと、かなり緩い加速となります。かといって少しでも踏むとLOW側に入り、エンジンが唸ります。

つまり、中間がありません。変速比1.4くらいのMIDDLEが合っても良かったかもしれないです。

AGSほどではないですが、これを搭載している軽自動車は走りのクセが強いです。特にトルクの細いエンジンを積んでいた初期型B21デイズなどで特にこのクセを感じます。

変速時の溜めのタイミングのクセがわかれば、アクセルである程度コントロールできて面白いのですが、とはいえラバーバンドフィールのラグを考慮した機械に合わせた走り方となるため、ダイレクト感のあるAGSほど面白みはないですね。ただ、完全自動変速なのでAGSより安楽ではあります。

アイシンAW AWFCW21(ダイレクトシフトCVT)

変速比:7.6

トルク領域:~2.0Lクラスまで(21.9kg/mまでのトルク対応)

概要

発進用にギアを付けたCVTです。

下記の赤枠の部分にMTのシフトフォークらしきものがあり、これでギア変速部分とCVT変速部分を切り分けている模様。

下の動画を見ると、CVT変速時に切り替わったときにも青い部分のギアが回転はしていますが、右に左に遊んでいるため、JF015Eと違ってギア変速時とベルト変速時で動力を切り離すスプリットタイプと思われます。

まだ試乗していないので、どういうフィーリングなのか、メリット・デメリットがあるのかというのが語れるほど情報がないので予想のみになります。

発進をギアに担当させた狙いを予想

ギア発進によるキレの良さを狙ったという論調の記事もあります。

確かに、車は発進時に一番トルクが必要になるため、その部分のベルト負荷軽減とスムーズさを狙うためというのも十分理解できます。

ただ、個人的にはトルコンとベルトだけのCVTの発進でもあまりキレが悪いと感じたことはありません。むしろ加減速時に感じます。

また、CVTの弱みは油圧ロスによる高速域の伝達効率の低下なので、むしろ高速側をギアに担わせたほうが良いというのが一般的な考え。

ではなぜ発進側がギア変速なのでしょうか。

低速域をギアに担わせたのは、スムーズさがまずひとつ

高速域でギアに直結させようとするとプーリーの回転が速い・油圧が高い状態でスムーズにギアに繋げる必要があるため、ギア変速周りの強度や制御が高度なものになることが予想されます。

発進ギアからのベルト変速への移行であれば、ベルト変速部の回転もそこまで高くなっていないため、制御とそれぞれの変速機構への負荷が上のパターンより容易だと考えられます。

低速域をギアに担わせたのは、グローバル対応がその次

さらにトヨタはこのCVTをRAV4、カローラといった海外戦略車に載せています。

海外ではフリーウェイやアウトバーンなどでの超高速域の燃費と速度の伸びは必ず要求されるであろうため、あえて発進側をギア変速、高速側をベルト変速にしたと思います。高速側をギア変速機構に担当させると、ギアを多段変速にしないと高速域のスピードが伸びないためです。

さらに高速時にギア駆動に切り替わったとしてもプーリーとベルトの方にはある程度油圧をかけて回しておかないとキックダウンなどで変速機構が切り替わるときにもたつくか、切り替えクラッチ部分に大きな負荷がかかるであろうため、デメリットが大きいです。

高速域のベルト変速機構の伝達効率の低下については、プーリーの小型化による撹拌抵抗低減、高効率化などでカバーするつもりで、高速域をベルト変速にしたのだと思います。

私の予想まとめは下記

  • 発進時だとベルト機構の回転数もそこまで上がらず、油圧もそこまでいらないのでギア→ベルト変速機構切り替えがよりイージー
  • ベルト変速に切り替わっても共連れするのが発進用ギア機構程度であればそこまで負担とならない
  • ギア変速機構により、ベルト変速部分が小型化・高効率化でき、ベルト変速でも超高速域である程度の燃費が確保できる

感想

このCVT、1速MT+それより上はベルト変速という構造なのでパーツが増えてコストが高くなりそうですが、よく実現したものだと思います。切り替え制御開発を担当した開発者が何人か干からびていそうです。

搭載車にどこかで乗ってみたらまた感想書きます。

ダイハツ D-CVT

変速比:7.3

トルク領域:~1.0Lクラスまで(10.2kg/mまで)
トルク領域:~1.5Lクラスまで(15.3kg/mまで)

概要

高速駆動用にギアを付けたCVTです。トヨタの逆かい!

赤枠部分に高速走行用のギアが付いています。

こちらは高速域でCVT変速部をある程度切り離し、ギア駆動に切り替えるものです。

動作は下記のカートップの動画が非常に参考になります。

高速域だと下記画像の右側、赤い印がついているギア部分の回転スピードが早くなり、CVT側は油圧が低くなり、プーリーは結構なスピードで回っているものの、ベルトはだるーんとなっています。これで大丈夫なのかちょっと怖いです。まあ大丈夫だから商品化したのだと思いますが。

仕組みを簡潔に紹介しているのが下記動画です。

低速域は普通にベルト変速なのですが、高速域では緑色のギアが噛み合ってきてギア駆動に切り替わります。

その時ベルト変速部分がどうなるかというと、ベルト変速部の出力軸が遊星ギアの真ん中サンギアに配置されているので、プラネットギアを介して間接的にギア駆動部分のギア2と繋がります。

ギアは遊星ギア外側のプラネットギアとアウターギアを使ってタイヤを高速回転させつつ、後ろのベルト変速機構をサンギアを介してついでに回転させてうまく動力を分割させています。

ただ、ギア1の軸がベルト変速のプライマリープーリー側とつながっているため、ギア変速に移行してベルト変速部分の油圧を下げられたとしても、ある程度ベルト変速側のロス(油圧とプーリーの重さ)を引きずる形になりそうなのが心配です。

高速時をギアに担当させた狙いを予想

CVTは高速時の油圧ロスによる伝達効率低下が問題だったので、そこに対する真正面からのアプローチだと思います。

これができたのは、ダイハツの場合国内・アジア向けの小型車、軽自動車がメインなので、トヨタのように海外の高速道路で200km/hくらいでぶっ飛ばす可能性を想定したクルマを作る必要もないであろうため、高速域は1段ギアで十分としたのではないでしょうか。

高速時にギア変速に移行する際の噛み合いショックの処理、またベルト変速に戻るときの油圧コントロールをスムーズに実現させて、いかに乗り手に違和感を感じさせないかがキモだと思います。

感想

MAXスピードレンジが120km/hほどの日本や渋滞だらけの東南アジアであればこのCVTで十分行けると思います。ただそれ以上のレンジだと、高速ギアが1速のため、高速になればなるほどエンジン回転数が上がっていき燃費が逆に悪くなるということになるかもしれません。

ベルト変速機構部分もある程度変速に寄与するということですが、実物の動作動画のベルトのゆるゆるさを見ると疑問が残ります。遊星歯車と繋がっているセカンダリープーリーを何かしらの力で回せれば変速に寄与できそうではありますが……。

とはいえ軽自動車はスピードリミッターが140km/hまでだから、あまり気にしなくて良さそうです。あとは部品点数増による信頼性とゆるゆるのベルトがどうなるかです。

まとめ

  • ジヤトコ JF015E→ベルトと遊星ギアの発展形の副変速機でワイドレンジ化した機構は他の2つに比べて複雑ではないですが、トルコン→副変速機→ベルト変速を経由するのでドライバビリティに欠けるときがあります。
  • アイシンAW AWFCW21→低速域のギア変速とそれより上のベルト変速が分割されているので、JF015Eよりスッキリした乗り心地になりそうです。ただ機構がシフトフォークを使っていて複雑なのがどうコストと信頼性に出てくるのかが気になります。
  • ダイハツ D-CVT→AWFCW21と逆の組み合わせで、かつ遊星歯車による簡単で合理的なスプリット機構ですが、高速ギア駆動域でギアと共に回転しているベルト変速部分のロスが実燃費にどう効いてくるのか気になります。

エンジンも面白いですが、変速機もまだまだ面白いですね。今後電動化が進んでも変速機構の出番はまだまだなくなりそうにないので色々な仕組みが見られそうです。

ちなみに

CVTにギアによる副変速機構を付けるという特許は1970~80年くらいにトヨタが出しています。当時は燃費のためというより加速向上やトルク耐性向上のためだったようです。

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